ニュー資金別貸借対照表が、どのような構造になっているかを、考えてみましょう。
流動資金を除く、ニュー資金別貸借対照表全体を、図示すると、二つのタイプになります。
売上仕入資金がプラスの場合
売上仕入資金がマイナスの場合
財政状態は、この六つの要素によって、判断することができます。
この六つの要素が、どのように結びついているのか、を説明していきます。
1.損益資金と売上仕入資金との関係
取引が、すべて現金取引であれば、当期利益は、全額会社に入ってきます。
しかし、会社に入ってくる資金の量は、売上仕入資金の売掛金・買掛金等によって、変化します。
損益資金と売上仕入資金の合計を、「継続損益資金」と言います 。
「継続損益資金」を数値を用いて、説明していきます。
a.継続損益資金
貸借対照表 | |||
現金 | 5000 | 前期繰越利益 | 5000 |
前期の貸借対照表は、上の通りです。
必要な部分だけの、貸借対照表になっていますので、資本金等その他の貸借対照表の科目は、省略しています。。
仮定
・仕入の3倍で、商品を販売(暴利になりますが、説明しやすいので)。
・販売費及び一般管理費+営業外費用ー営業外収益=500
が、毎期 同額、発生しており、すべて現金の取引です。
例1
現金で、商品を1000仕入れ、 現金3000で売却した、とします。
そうすると、3000ー1000ー500で、1500の利益を獲得し、現金が、1500増加します。
現金取引だけですと、当期利益と同額、現金は、1500増加します。
貸借対照表は、次のようになります。
貸借対照表 | |||
現金 | 6500 | 前期繰越利益 | 5000 |
当期利益 | 1500 |
例2
今度は、商品を、買掛金で600、現金で400、仕入れたとします。
売上は 、2000を売掛金で、現金で1000円、売り上げたとします。
利益は、上と同じように、3000ー1000ー500で、1500の利益が、出てます。
現金は、売上額1000ー仕入額 400ー500=100と、前期からの繰越額6500で、6600になります。
そうすると、次のような、貸借対照表になります 。
貸借対照表 | |||
現金 | 6600 | 買掛金 | 600 |
売掛金 | 2000 | 前期繰越利益 | 6500 |
当期利益 | 1500 |
これを、ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると、
損益資金 | 8000 | (前期繰越利益6500+当期利益1500) |
売上仕入資金 | ▲1400 | (買掛金600ー売掛金2000) |
継続損益資金 | 6600 | (8000+▲1400 ) |
となり、貸借対照表の金額と、一致します。
売上仕入資金では、買掛金よりも売掛金の方が多いため、1400のマイナスが発生しています。
当期利益1500の現金が、増加するはずが、売上仕入資金の▲1400によって、1400だけ現金が、減少し、100だけの増加になっています 。
損益資金に売上仕入資金を加えた継続損益資金が、「会社の手元に残る資金」を、示しています。
例3
次期は、売掛金1000、現金2000円で、売上ました。
仕入は、買掛金400、現金600です。
売上、仕入とも前期と同じですので、利益は、1500です。
貸借対照表 | |||
現金 | 8900 | 買掛金 | 400 |
売掛金 | 1000 | 前期繰越利益 | 8000 |
当期利益 | 1500 |
これを、ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると、
損益資金 | 9500 | (前期繰越利益8000+当期利益1500) |
売上仕入資金 | ▲600 | (買掛金400-売掛金1000) |
継続損益資金 | 8900 | (9500+▲600 ) |
となり、貸借対照表の金額と、一致します。
現金の増加額は、前期と当期の貸借対照表から、8900ー6600=2300です
これは、当期の継損益続資金8900から、前期の継続損益資金6600を引いた額です。
これが、現金の増加額です。
計算式を示しておきます。
当期継続損益資金ー前期継続そ資金
=(当期損益資金+当期売上仕入資金)ー(前期損益資金+前期売上仕入資金)
=損益資金(当期ー前期)+売上仕入資金(当期ー前期)
=(9500ー8000)+(▲600-▲1400)
=1500+800=2300
となります。
当期の現金の増加額を算定するためには、当期の売上仕入資金ばかりでなく、前期の売上仕
入資金も影響してきます。
2.損益資金と売上仕入資金と実質損益資金の関係
a.実質損益資金
損益資金+売上仕入資金ー棚卸資産
=継続損益資金ー 棚卸資産
が、実質損益資金です。
内部留保を含め、企業が獲得した損益資金の、最終的な資金ベースの利益の額です。
もう少し、実質損益資金が、内部留保を含め、企業が獲得した損益資金の最終的な資金ベースの利益の額である、ことを説明します。
継続損益資金で使った、前期貸借対照表と設定した仮定は、同一です。
貸借対照表 | |||
現金 | 5000 | 前期繰越利益 | 5000 |
例3
現金で、商品を1000仕入れ、 そのうち、700を。現金2100で売却しました。
期末には、棚卸資産300が、残っています 。
売上原価は700です。
利益は、2100ー700ー500=900 です。
現金は、2100ー1000ー500=600の増加です。
現金が、当期利益に比べて、300少ないのは、棚卸資産に、300支出しているからです。
資金が、どれだけ会社に残るかを、知るためには、棚卸資産の支出も考えなければならないのです。
これを、考慮して、考えられているのが、実質損益資金です。
実質損益資金は 、創業以来の、事業経営によって獲得した損益に関する資金が、最終的に、どれだけ、企業に残るか、を表しています。
期末貸借対照表です。
貸借対照表 | |||
現金 | 5600 | 前期繰越利益 | 5000 |
棚卸資産 | 300 | 当期利益 | 900 |
ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると
損益資金 | 5900 | (前期繰越利益5000+当期利益900) |
売上仕入資金 | 0 | |
継続資金 | 5900 | (損益資金5900+売上仕入資金0 ) |
棚卸資産 | ▲300 | |
実質損益資金 | 5600 | (継続損益資金5900+棚卸資産▲300 ) |
貸借対照表の現金の金額と、一致します。
例4
次期です。
商品を、現金1000で、仕入れたとします。
商品は、前期の棚卸資産300と仕入れた商品の半分500を、現金2400で、売上げました。
棚卸資産500が、売れ残っています 。
売上原価は、300+1000ー500=800 です。
当期から、引当金50を計上しています。
利益は、2400ー800-500ー50=1050 になります。
当期末貸借対照表です。
貸借対照表 | |||
現金 | 6500 | 引当金 | 50 |
棚卸資産 | 500 | 前期繰越利益 | 5900 |
当期利益 | 1050 |
ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると
損益資金 | 7000 | (差・繰越損益等(50+5900)+当期利益1050) |
売上仕入資金 | 0 | |
継続資金 | 7000 | (損益資金7000+売上仕入資金0 ) |
棚卸資産 | ▲500 | |
実質損益資金 | 6500 | (継続損益資金7000+棚卸資産▲500 ) |
損益資金7000から、売上仕入資金0が、引かれて、継続資金が、7000、継続資金7000から、棚卸資産500を、引いた金額6500が、実質損益資金であり、貸借対照表の、現金の金額になります 。
前期末と当期末の貸借対照表から、現金が900増加しています。
これは、当期の実質損益資金6500と、前期の実質損益資金5600の差額⊿ G900、と同額です。
この⊿ Gが、企業の1年間の営業活動によって獲得した、最終的な損益資金として増加した額で、企業として自由に使えるお金です。
ニュー資金別貸借対照表の実質損益資金までを、当期と前期のニュー資金別貸借対照表で計算し、当期から前期を引いた、その差額が、⊿ Gになります。
式で、損益資金、売上仕入資金、棚卸資産の関係を示します。
⊿ G =当期実質損益資金ー前期実質損益資金
=(当期損益資金+当期売上仕入資金ー当期棚卸資産)ー
(前期損益資金+前期売上仕入資金ー前期棚卸資産)
=損益資金(当期ー前期)+売上仕入資金(当期ー前期)ー棚卸資産(当期ー前期)
=(7000-5900)+(0-0)ー(500-300)
=1100ー0ー200
=900
となります。
1年間の資金の増加額を示す⊿ Gは、
損益資金(当期ー前期)+売上仕入資金(当期ー前期)ー棚卸資産(当期ー前期)
で計算されます。
次の例では、売上仕入資金も数値を入れて説明しましょう 。
例5
新しいケースです。
期首貸借対照表です。
貸借対照表 | |||
現金 | 5950 | 買掛金 | 400 |
売掛金 | 1000 | 引当金 | 50 |
棚卸資産 | 500 | 前期繰越利益 | 7000 |
前期のニュー資金別別貸借対照表です。
損益資金 | 7050 | |
売上仕入資金 | ▲600 | |
継続損益資金 | 6450 | |
棚卸資産 | ▲500 | |
実質損益資金 | 5950 |
商品を、買掛金300、現金700、計1000仕入れました。
商品は、期首の棚卸資産500と、仕入れた商品1000、計1500から、1100売却し、棚卸資産400が、売れ残りました。
売上は、売掛金1500と現金1800、計3300です。
売上原価は、
期首棚卸資産500+当期仕入1000ー期末棚卸資産400=1100
引当金60を計上しています。
利益は、
売上高3300ー売上原価1100ー500ー60=1640
になります。
期末貸借対照表です。
貸借対照表 | |||
現金 | 7150 | 買掛金 | 300 |
売掛金 | 1500 | 引当金 | 110 |
棚卸資産 | 400 | 前期繰越利益 | 7000 |
当期利益 | 1640 |
ニュー資金別別貸借対照表で、表現すると
損益資金 | 8750 | (差・繰越損益等(110+7000)+当期利益1640 |
売上仕入資金 | ▲1200 | (買掛金300-売掛金1500) |
継続損益資金 | 7550 | (損益資金8750+売上仕入資金▲1200 ) |
棚卸資産 | ▲400 | |
実質損益資金 | 7150 | (継続損益資金7550+棚卸資産▲400 ) |
これは、期末貸借対照表の、現金の金額です 。
期首と期末の貸借対照表から、当期に増えた現金は、
7150ー5950=1200
です。
1年間の資金の増加額を示す⊿ G
=損益資金(当期ー前期)+売上仕入資金(当期ー前期)ー棚卸資産(当期ー前期)
ですから、
⊿ G=(8750ー7050)+(▲1200ー▲600 )ー(400ー500)
=1700ー600+100=1200
(注)
・▲は、マイナスのことです 。例えば、▲600は、マイナス600で、それに、マイナスが付くと、プラスになります。ー▲600は、プラス600です。
・⊿ G(デルタG)は、マイナスの意味ではなく、差額の意味で使っています、前期と当期の差額という意味で使われています。
1200は、当期と前期の貸借対照表の現金の差額である、1200と一致しています。
1200は、この1年間で獲得した、自由に処分することができる資金です。
実質損益資金は、創業以来、企業が獲得してきた損益資金の、最終的な資金ベースの利益の額です。
企業の損益資金の蓄積が、あまりなされていない場合、売上仕入資金や在庫の金額によっては、マイナスになる場合があります 。
利益を獲得しても、売掛金が買掛金より大きい場合、売上仕入資金の分だけ、現金が入ってきません。
また、棚卸資産に、現金を支出しています。
実質損益資金は、これらの現金減少分を超えないと、プラスになりません。
実質損益資金は、会社の現金の増加額を、示しています。
実質損益資金が、0であると、今までの事業経営で、増加した現金は、0年である、ということを、意味しています。
実質損益資金が、マイナスになるということは、資本金、資本準備金まで、食い込んでいるということです。
資本金・資本準備金の一部を使って、運転資金を運用している、ということになります。
会社を設立した当初は、資本金・資本準備金の一部を使って、棚卸資産を購入し、最小限の設備投資をして、最初は、現金取引を行い、徐々に、信用取引が増加していきます(現金取引の業種もありますが)。
そして、利益が、蓄積されることで、安定的に、会社運営がされるようになります。
設立当初と違うのは、既に、信用取引があり、多額の長期借入金で資金を調達し、設備投資をしている、ということです。
実質損益資金が、マイナスの状況は厳しい経営状況にあります。
実質損益資金は、売上仕入資金の改善と、棚卸資産の適正在庫にすることにより、増加させることができます。
難しいかもしれませんが、売掛金の回収サイトの短縮、売掛金の回収管理、買掛金の支払サイトを遅くするなどを行い、改善されると、実質損益資金が増加します 。
注意していただきたいのですが、 資本金、資本準備金に食い込んでいるということは、資金ベースの話です。
実際の貸借対照表では、純資産、繰越利益剰余金が、プラスであり、 マイナス残高でない、ということは当然あり得ることです。
あくまでも、資金をベースとした説明です 。
3.損益資金、継続損益資金、実質損益資金の関係 を、図示してみました。
a.売上仕入資金がプラスの場合
(1)実質損益資金ガプラス
売上仕入資金がプラスですので、それと、損益資金を足したものが、継続損益資金になります 。
そこから、棚卸資産を引いた額が、実質損益資金です。
(2)実質損益資金がマイナス
x
継続損益資金よりも、棚卸資産の額が大きいため、実質損益資金が、マイナス残高になっている場合です。
b.売上仕入資金がマイナスの場合
(1)実質損益資金ガプラス
売上仕入資金が、マイナスになっていますので、損益資金から差し引くと、継続損益資金になります。
継続損益資金の額よりも、棚卸資産の額が少ないので、実質損益資金が、プラスになっています。
(2)実質損益資金がマイナス
継続損益資金よりも、棚卸資産の額が大きいため、実質損益資金は、マイナス残高です。
(3)実質損益資金・継続損益資金がマイナス
損益資金よりも、売上仕入資金のマイナスの方が大きいため、継続損益資金が、マイナス残高になっています。
そこから、さらに、棚卸資産を引いたものが、実質損益資金のマイナス残高です 。